TOP診療看護師(NP)への道Vol.3/高齢化が進む故郷の長崎・五島がすべての出発点。〜介護士から診療看護師(NP)の夢を叶えるまで〜【診療看護師(NP)】江口 貴彦

診療看護師(NP)への道

診療看護師(NP)を目指すことを
考えはじめた方へ

Vol.3/高齢化が進む故郷の長崎・五島がすべての出発点。〜介護士から診療看護師(NP)の夢を叶えるまで〜【診療看護師(NP)】江口 貴彦

2025年09月11日

独立行政法人国立病院機構 長崎医療センター
統括診療部 高度救命救急センター
診療看護師(NP)

江口 貴彦 Takahiko Eguchi
江口貴彦さんは、介護士から診療看護師(NP)を目指した異色のキャリアパスの持ち主。
その原動力となったのは、生まれ育った長崎県の離島で感じた「地域で暮らす人の役に立ちたい」という思い、そして介護福祉士の経験にあります。
現在は救急科の診療看護師(NP)として、入院患者が再び住み慣れた地域へ帰れるよう医療チームの架け橋となるべく奮闘中です。
江口さんが診療看護師(NP)になる夢を叶えるまでのストーリーをインタビュー形式でたどってみましょう。

「地域の高齢者を支えたい」 その想いから介護職へ

診療看護師(NP)を目指す起点となった出来事を教えてください。

私は長崎県の離島・五島で生まれ育ちました。
両親は医療関係者ではなく、医療や看護を身近に感じるような幼少期ではなかったのですが、祖母の家に遊びに行ったり、地元の行事に参加したりするなかで、地域の高齢者の方と接する機会が多かったんです。
そんな背景から地域の役に立ちたいと考えるようになり、高校卒業後、長崎県の本土に渡ってヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を取得し、介護事業所へ就職しました。
それが、後に診療看護師(NP)を目指した原点です。ちょっと珍しいプロセスかも知れませんね。
 

介護福祉士から看護師へキャリアチェンジした理由は?

入職5年目に介護福祉士の資格を取得し、系列の訪問介護事業所で主に高齢者の訪問介護に携わるようになりました。
しかし、訪問時に利用者さんが家の中で転倒されていたり、意識がないといった緊急性の高い場面に遭遇することが度々あり、私自身に医療の知識があればと強く感じるようになりました。
当時の上司に自分の思いを伝えたところ、働きながら看護師の資格取得に挑戦できるよう勤務シフトを配慮していただけることになり、介護職を続けながら准看護師と正看護師のライセンスを5年かけて取得しました。
朝から夕方まで仕事をして夜間学校へ通う毎日でしたが、目標に向かって学べる喜びと学ばせてもらえる環境への感謝の気持ちが大きかったです。
 

看護師を目指す中で知った 診療看護師(NP)の重要性

診療看護師(NP)のことは、いつ知りましたか?

看護師の専門学校に通っていた時に修学旅行でハワイパシフィック大学の関連施設を見学し、Nurse practitioner(NP)の存在を知りました。
ハワイでは医学的知識を持つNPが、独立開業して患者に寄り添いながらプライマリ・ケアを担うと聞き、自分自身もそういう働き方ができれば、地域により深く関わって満足度の高い医療やケアを提供できるのではないかと感じました。
将来のビジョンとして、いずれは五島に帰って地域に貢献したいという思いが芽生えました。
その後、結婚し、家庭ができるなど環境の変化もあり、住み慣れた地元、長崎に就職先を絞り込んで就職活動を始めました。
その頃に長崎医療センターに診療看護師(NP)が存在すること、また、育成にも力を注いでいることを知り、「ここしかない!」と入職を決意しました。
診療看護師(NP)になれるまで何年かかろうとも、私自身がやるべきことは目標に向かって、ただひたすら努力するだけ。そこに不安や迷いはありませんでした。
 

診療看護師(NP)への道のりが本格的にスタートしたのですね。

はい。最初の5年間は病棟看護師として総合診療科の病棟で勤務しました。
そこで、すでに活動されていた診療看護師(NP)の先輩にご指導いただき、強い憧れを抱きました。
医師と看護師の架け橋となって患者さんのケアやマネジメントを総合的に行い、「これこそが目指すべき診療看護師(NP)の理想の姿だ」と身震いしました。

資格取得に必要な大学院の修士課程は、どのようにクリアを?

その後も長崎医療センターで働きながら福祉と看護を深く学べる通信制の4年生大学に入学して学士(社会福祉学)を取得しました。
また、並行して呼吸療法認定士などの専門的な資格も取得しました。
そうした自己研鑽を認めていただき、長崎医療センターと連携する東京医療保健大学の大学院に研究休職制度を利用して進学することができました。
当時は、子どもが生まれたばかりで幼かったのですが、妻も背中を押してくれましたので、大学院のある東京へ単身で上京することができました。
ところが、ちょうどコロナ禍と重なってしまい、多くの授業がリモートでした(苦笑)。
大学院のすぐ近くに引っ越したのに対面授業が受けられず、同期と直接会ってディスカッションもできない。長崎に帰省することもままならなくなり、閉鎖された空間で黙々と一人で勉強する孤独感が精神的にキツかったですね。

患者の全身管理を学ぶべく 7つの専門科で卒後研修を経験

卒後研修は、再び長崎医療センターで?

長崎医療センターでは独自のアウトカム思考型の教育を実践しているので、それに応じた評価を受けながら、卒後臨床研修を受けました。
具体的な診療科としては、1年目の4月〜9月に救急科・10月〜3月は総合診療科でした。
2年目はNICUと小児科を3カ月、その後の5カ月間は選択制で、整形外科2カ月、脳神経外科、形成科、血液内科をそれぞれ1カ月選択しました。
そして、最後に2カ月ずつ救急科と総合診療科を回る研修プログラムでした。
 

選択制で選んだ4科(整形外科・脳神経外科・形成科・血液内科)は何か理由が?

介護福祉士として在宅介護に携わっていた時の経験から、自宅で転倒して骨折し、病院に搬送されて手術や処置を経て退院するまでの一連の流れを理解したかったのが整形外科を選んだ理由です。
脳神経外科は診療看護師(NP)が2名活躍していたので働き方を学ぶため、形成外科も診療看護師(NP)にとって重要な縫合処置を学ぶために選びました。
血液内科は、血液のがんに関する複雑な治療プロセスなどを学ぶ必要があると感じて選びました。
 

卒後研修ではリフレクション(振り返り・改善のプロセス)も重要ですよね?

そうですね。チューター役の医師にご指導いただきながら、月1回は必ずリフレクションを行い、できていること・できていないこと、どこにジレンマを感じているかといった詳細な相談に乗っていただきました。
リフレクションや省察を繰り返すことで自分なりの学びや基礎を築くことができたと感じています。

研修中にどういう場面で診療看護師(NP)の必要性を感じましたか?

問題意識を強く持ったのは、研修医の先生と一緒に動くなかで感じた看護師のマンパワー不足です。
例えば、感染症の患者さんを別棟で診療する場合に、別棟に医師と看護師がいない場合でも診療看護師(NP)が一人いれば、包括指示の中ではありますが、自律した判断のもと看護をしながら一定レベルの診療もできます。これは強みだと感じました。

救急現場で診療看護師(NP)として 大切にしているACPの視点

研修修了後の現在、高度救命救急センターに配属とのこと。ご自身の希望ですか?

患者さんの全身管理ができる診療看護師(NP)になりたいという私自身の希望もありましたし、研修1年目に救急科をローテーションさせていただいた際に、現在の上司でもある高度救命救急センター長から声をかけていただいた経緯もあります。
救急科専属の診療看護師(NP)は、長崎医療センターでは私が初めてでしたので、今は役割の開発を意識しながら動いています。
具体的な役割としては、ICU患者さんの病棟管理や救急外来の初期対応をメインに行なっています。
 

救急やICUの現場で診療看護師(NP)として、大切にしていることはありますか?

高度救命救急センター長の思いでもある「家族や患者さんを置いて行かない医療」を強く意識してします。
患者さんの主体的な意思決定を支援し、その人らしい医療・ケアを行うACP(アドバンス・ケア・プランニング)を実現するため、しっかりコミュニケーションをとりながら介入できる診療看護師(NP)でありたいと考えています。

長崎という土地柄、離島からのドクターヘリの要請も多いと聞きました。

離島やへき地からの要請は多く、私も2024年秋からフライトナースとして出動するようになりました。
将来的には、フライト診療看護師(NP)として現場へ駆けつけ、フライトドクター、フライト診療看護師(NP)、フライトナースの3人1組チームで臨める体制を救急科として目指しています。
フライト診療看護師(NP)の役割として、現場のマネジメントや、難しいとされている意思決定に介入したいと考えています。
また、多数傷病者発生時や災害発生時に重症者をドクターが重点的に処置し、軽傷者や軽傷者の中で重症化のリスクが高い方を看護師と診療看護師(NP)が対応するといった協働ができれば、搬送までの時間短縮にもつながります。
 

今後の目標やビジョンをぜひ聞かせてください。

現在は診療看護師(NP)として急性期のクリティカルケアや救急現場でのプレホスピタルケアに携わっていますが、それは通過点の1つだと思っています。
最終的に目指しているのは地域でのプライマリ・ケアで、そのためにクリティカルケアもプレホスピタルケアも深く習得する必要性があると考えています。
住み慣れた地域から救急搬送された患者さんが再び地域へ戻れるよう、介護福祉士として培った人を見る視点に診療看護師(NP)の知識や経験値を加味して、総合的なマネジメントを実践できるようになりたいと考えています。
 

最後に診療看護師(NP)を目指す人たちへメッセージをお願いします。

私自身、診療看護師(NP)になって、できることの可動域が格段に広がったことを実感しています。
現場の状況に応じて、どのように医師や看護師と協働していくべきか常に模索していく難しさもありますが、患者さんの生活に軸足を置いたより良いケアを検討し意見や提案をできるのが診療看護師(NP)の強みです。
目標を持って前に進み続けていれば、その姿を絶対に誰かが見てくれています。皆さんも診療看護師(NP)という大いなる目標に向かって、頑張ってください!

プロフィール

江口 貴彦(えぐち たかひこ)
 
2003年 高校卒業後、ヘルパー2級の資格取得のため長崎県の離島から本土へ。
    ヘルパー2級取得後、介護士として勤務
2009年 グループホームやデイサービスの経験を積み介護福祉士取得
    訪問介護事業所にてサービス提供責任者(主任)として勤務

2010年 介護職を続けながら長崎医師会看護専門学校 准看護科入学
2012年 准看護師免許取得、長崎医師会看護専門学校 第2看護学科入学
2015年 看護師免許取得、独立行政法人国立病院機構 長崎医療センター入職(総合診療科配属)
2016年 放送大学入学(教養学部 生活と福祉コース課程)
2019年 3学会合同呼吸療法認定士取得
    E-FIELD研修受講(患者の意思を尊重した意思決定支援のための相談員研修会)
    放送大学卒業 学士取得(教養学部 生活と福祉コース課程)

2020年 独立行政法人国立病院機構 長崎医療センターを休職
    東京医療保健大学大学院入学(看護学研究科 看護学専攻 修士課程)
2022年 東京医療保健大学大学院卒業 修士課程修了、日本NP教育大学院協議会認定 診療看護師(NP)
    独立行政法人国立病院機構 長崎医療センター診療看護師(NP)として勤務 卒後臨床研修開始
2024年 卒後臨床研修修了
    同センター 統括診療部 高度救命救急センター診療看護師(NP)として配属