TOP現役診療看護師(NP)の声愛知医科大学病院 NP部 診療看護師(NP)/田中 千晶(タナカ チアキ)

現役診療看護師(NP)の声

診療看護師(NP)たちが各自の組織でどのようにして「診療看護師(NP)」として理解してもらっているか、「診療看護師(NP)」の役割がどのようになっているかなど、各地の診療看護師(NP)を現役の診療看護師(NP)がインタビューします。

愛知医科大学病院 NP部 診療看護師(NP)/田中 千晶(タナカ チアキ)

2025年09月11日

 
愛知医科大学病院 NP部
診療看護師(NP)

田中 千晶(タナカ チアキ)

診療看護師(NP)になるまでのキャリアについて教えてください。

幼い頃から人と関わることが好きで、祖父が病院通いをしていたこともあり、病気やケガで困っている人を笑顔にできる看護師を目指すようになりました。その後、山形の大学病院に看護師として就職してからの数年間は、患者さんの力になりたいという思いは人一倍強いのに実力が伴わず、ずっともがいていましたが、看護師経験が5年目を迎えた頃からは、喘息の発作や心不全で入退院を繰り返す患者さんのケアに関わる中で、自分の中のモヤモヤの原因がクリアになっていきました。そのうち、「ICUに運ばれてきた患者さんの容態が安定し、笑顔にするだけでは十分な看護とは言えない。ご自宅でもずっと笑顔で生活を送れるよう、先を見ることができる看護師でありたい。深みのある看護をするためには医学の知識が必要だ」と考えるようになり、大学の講義で印象に残っていた診療看護師(NP)のことを思い出したところ、大学院に診療看護師(NP)育成コースが誕生するという偶然も重なり、志す決心をしました。看護師として夜勤で働きながら日中に大学院に通う2年間は体力的にはハードでしたが、とても充実した毎日でした。
 

診療看護師(NP)になってからのことを聞かせてください。

2019年に診療看護師(NP)の資格を取得後、山形の大学病院で初めての診療看護師(NP)として、働き方を開拓していくような形で活動を始めました。その後、2020年2月の結婚を機に愛知県へ引っ越すことになり、現在の愛知医科大学病院のNP部へ転職しました。愛知医科大学病院では、麻酔科、心臓外科、疼痛緩和外来、救急診療部、リハビリテーション科の5つの診療科で診療看護師(NP)が活動していて、就職前の見学で麻酔科の診療看護師(NP)の方にお話しを聞く機会をいただきました。麻酔管理のことはもちろん、患者さんの病態や術式のことなど何を質問しても具体的な答えが返ってきてすごい!と感じました。また、患者さんにとって優しい麻酔とは、術後に吐き気も痛みもなく過ごせるようにするには、退院後の生活や患者さんが望む早い職場復帰を叶えるには、という先のことまで視点を広げていて、診療看護師(NP)が麻酔管理の補助に関わる意味を強く感じました。
 

診療看護師(NP)の現場を実際に目にして、どう感じましたか?

医師とのディスカッションの場面で、患者さんの食事やリハビリ、退院後の生活にも配慮して、堂々と自らの考えや意見を述べている診療看護師(NP)の先輩方の姿が、私の中では衝撃的でした。それまでに私も診療看護師(NP)として、ICUで集中ケアを行う際の呼吸管理や、透析の管理などを医師とディスカッションすることはあったのですが、診療看護師(NP)の先輩方は急性期の中でも患者さんの生活の部分を大事にしていて、医師と同じ認識を持ちながら、看護師としての基盤を活かした異なる視点を加味して意見交換をしていました。患者さんのための看護、という目的が明確で、「私がやりたいと思っていた看護を、この病院の診療看護師(NP)たちは高いレベルで実践している。このレベルに私も到達したい」と思いました。
 

田中さんは現在“ママ診療看護師(NP)"としてご活躍ですね

2021年12月に出産し、1年間の産休を経て2022年11月に職場復帰しました。出産前は日勤も夜勤もしていましたが、出産を機に家族との時間も大事にしたいと思うようになり、職場復帰後は、時短勤務制度を利用しながら通常より1時間短い勤務をさせてもらっています。また、復帰直後は管理者や周囲のスタッフが配慮してくれて、子育てとの両立がしやすいよう午前中のみの短い勤務時間から始められたことも、本当にありがたかったです。今はまだ夜勤はしていませんが、子どもが3歳になり落ち着いてくる頃なので、そろそろ夜勤にも入りたいと思っています。

逆に時短勤務が故の不安などはありますか?

むしろ、自分自身の診療看護師(NP)としての存在意義や役割を客観視する、いい機会になりました。医療の現場では、ずっと同じ診療看護師(NP)や看護師が患者さんのケアをできるわけではありませんし、誰かが気づかないところに気づく人がいて、できない部分を他の人がやってくれるという「チームで看・診る」ことが重要だと気づくことができました。自分がいなくてもいいではなく、自分ができることをやろうという考え方に変化したのです。以前は、ICUの患者さんが一般病棟に移ってからも、仕事終わりに患者さんの様子を覗きに行くなど、仕事が0から100まであったら最初から最後まで見届けたいという考え方でした。でも、子育てをしていると時間の兼ね合いの難しさや、キャパオーバーになってしまうがことがあります。このような経験から、他のスタッフよりも1時間短い勤務とさせていただいていますが、与えられた時間でフルパワーで診療看護師(NP)としての役割を果たそう!と切り替えられるようになりました。

チームの強さを感じますね。

そうですね。患者さんを看・診ているのは、自分一人じゃない。私を助けてくれる心強い仲間と医師が患者さんのことを看・診てくれていると思えるし、この病院の診療看護師(NP)と医療スタッフなら大丈夫だと信頼できます。

診療看護師(NP)として、子育ての視点が活かせる場面もあるのでしょうか?

すごくあると思います。私は診療看護師(NP)の役割に含まれる倫理的調整について、子育てをきっかけに以前よりも深く考えるようになりました。具体的には、ICUの診療看護師(NP)として患者さんのご家族への関わりをもっと広げられないかと考えたり、疼痛緩和外来の診療看護師(NP)として10歳未満の子どもたちを看・診る際に、この大事な時期に痛みを抱えなければならない子どもたちに対して、薬剤に頼りすぎない優しい医療と看護で痛みを緩和させ、元の生活を再獲得することができたらと考えるようになりました。さらに、子どもたちを案ずる母親のケアも重要視するようになり、母と子の相互関係を意識しながら治療、看護していくことを以前よりも強く意識するようになりました。

診療看護師(NP)として葛藤を感じたことはありますか?

当院では、やりたいのにできないというジレンマはありません。判断に迷うことがあれば、NP部として全員でディスカッションしながら考えて、何をやるべきなのか、診療看護師(NP)としては立ち入りすぎずに医師にやってもらうべきなのか、もっとこういう部分まで介入していこうなどの話し合いの場があり、診療看護師(NP)の葛藤をため込まない仕組みが確立されていて、医師にも相談しやすい環境です。

やはり子育てしながらだと、幸せなことだけでなく、ご苦労も多いのではないでしょうか?

診療看護師(NP)として専門性を高めるために知識を増やしたいと思っても、学びの時間を確保するのが本当に難しいですね。まだ子どもが小さいので学会やセミナーのために外出することが厳しく、振り返ってみるとコロナ禍のオンラインでの学会やセミナーのオンデマンド配信は子育て中の私としては助かっていました。最近は再び現地開催が増えてきたので、現地開催とオンデマンド配信のハイブリットで参加できたらいいのにと感じています。現在、ママ看護師をしている人の中には、診療看護師(NP)を目指したいけれど、子育て・仕事・勉強のトリプル生活を続けながらチャレンジすることにハードルを感じている方も少なからずいらっしゃる気がします。
 
 
夫からは「やりたいことは我慢せずにやってほしい。頑張っている母の姿は子供にも良い影響を与えるし、自分(夫)にも良い刺激になる」と言われております。
「家事は出来る人が出来る時にやる」「やってくれる事は当然ではない。必ずありがとうをお互いが言う」が自然とルールになっています。
現地開催学会へも家族3人で参加することが増え、私が学会に参加している最中は子供と夫が観光に出かけ、3人共に有意義な時間を過ごせています。
休日出勤の日は子供に勤務であることを説明すると、子供の『ママ、かっこいい!頑張って!』という言葉が、働く活力になっています。

これから診療看護師(NP)を目指す方たちへ、メッセージをお願いします。

診療看護師(NP)の仲間が増えるのは素直に嬉しいですし、目指してくれる人がもっと増えたらいいなと思います。ですが、どのタイミングで診療看護師(NP)を目指すかは、人によってキャリアや生活環境が異なるので、人それぞれで良いと思います。私が言えることは、人生の経験を豊かにすることは、診療看護師(NP)としての活動を広げることにもつながるということです。私自身も子育ての経験が、疼痛緩和外科痛みセンターに通う子どもや母親との関わりの中で活かせていると思いますし、できることが増えたという実感もあります。今では、一つずつ積み重ねた自分の人生が看護を充実させることにも繋がり、診療看護師(NP)としても大きく成長できるきっかけになると思えるようになりました。

最後に、子育てしながら働いている方へエールをお願いします。

私よりも長く、何人もの子育てをしながら診療看護師(NP)や看護師をしている先輩たちはたくさんいらっしゃいます。ママ歴3年の私が言うのはおこがましい面もあるのですが、子育てしながら働く苦労や大変さは、性別は関係なくその人にしか分からないと思うんですね。でも、今が大変でも1週間後に笑えたり、一年後にあんな苦労もあったなと懐かしく振り返ったりして、自分自身が笑顔になれる日が必ず来ます。その一瞬一瞬は大変なことも、すべてが患者さんの笑顔のためであり、子どもの笑顔、家族の笑顔、そして自分に返ってくる笑顔です。目の前の大変さを乗り越えた先にある、その笑顔を大切にして取り組んでいけば、楽しいと感じられ、大きな力になるのかなと思います。私もまだまだ頑張りますので、みなさんも一緒に頑張りましょう!
 
 
貴重なお話しをありがとうございました。女性や男性に関わらず、子育てをしながら人生経験を積み重ねることで、診療看護師(NP)としての視点や役割が広がり、活動できる領域も良い意味で変化していくことが分かりました。ママ診療看護師(NP)の先駆者として、今後のご活躍を楽しみにしています!
 
聞き手 : 日本NP学会 理事 伊藤健大