【緒言】
集中治療室(Intensive care unit:以下ICU)には,救命後に意識が回復しない患者も少なくない.このよ
うな場合は,人工呼吸器を装着し一般病棟へ移動する場合がある.今回,診療看護師(NP)による人工呼吸器
装着患者の病棟移動に関する実践を報告する.
【症例提示と介入】
65歳,男性,急性心筋梗塞の診断を受け入院.治療経過中に心肺停止(Cardio Pulmonary Arrest:CPA)
となり緊急手術となった.術後,ICUへ入室.ICU入室後,意識の改善を認めないため人工呼吸器を装着した
状態で病棟へ移動となった.診療看護師(NP)は,人工呼吸器患者を病棟で看護することの問題点を明らかに
し,移動前に病棟看護師に人工呼吸器の勉強会を行い,実際に病棟で活用する人工呼吸器の設定と安全に管理で
きるようにアラームの設定を行った.病棟に移動後は共に呼吸ケアを行った.
【考察】
病棟の安全に配慮しつつ人工呼吸器の設定調整やアラーム範囲を設定し,病棟看護師と共に人工呼吸ケアを一
緒に行うことで効果的なコラボレーションとなった.患者に合わせた安全な人工呼吸管理のための設定調整は,
患者の病態を把握することができ,病棟の看護を知る診療看護師(NP)が行う高度実践看護であると考える.
【結論】
診療看護師(NP)が行った人工呼吸器装着患者を病棟に移動するための実践は,安全にかつ継続的なケアを
行うができる環境作りであり,人工呼吸管理を病棟看護師とコラボレーションして行うことは,高度実践看護で
あった.
Key Words:診療看護師(NP),重症患者,病棟移動
【研究目的】
本邦のクリティカルケア領域での診療看護師による研究はほとんど見当たらない.今後診療看護師が指標を用
いてアウトカムを導きだすための一助とするため,米国のAcute Care領域におけるNPのアウトカムを明らか
にすることを目的とし,文献検討を行う.
【研究方法】
PubMedにて,キーワード「acute care」,「nurse practitioner」,「outcome」で検索し,米国内の原著論文
でAcute Careに関する論文に絞った.どのようなアウトカムが示されているかを明確にすると共に,
Holzemerの「ヘルスケアリサーチのためのアウトカムモデル」にて分類・考察した.
【結果】
168文献の中から18文献を対象とした.Holzemerモデルにおいて「Input」は全て患者で,「Process」では
多くが診察,患者評価等であった.54個の「Outcome」から【治療状況・期間】【在室・在院日数】【合併症】
【死亡率】【追加治療】【薬剤使用状況】【医療コスト】【満足度】【退院時教育】の9カテゴリーを抽出した.
【結論】
18論文は,データベースを用いた医師やPA(Physician Assistant)等との後向き・比較研究が大部分を占
めた. ACNP(Acute Care Nurse Practitioner)は患者の治療に対して医師等と同等のアウトカムを得られて
いることが示唆された.また,アウトカムのカテゴリー結果からは身体的指標や品質指標,あるいは費用対効果
などを指標として用いた可能性が示唆された.一方で,ケアの質などは明らかになっていないことから,実践に
関連した研究,および,質や過程を明らかにする研究へと進む必要がある.
Key Words:クリティカルケア,診療看護師,NP,アウトカム,文献レビュー
【目的】
日本では,既に600名近い診療看護師(以下,NP)が誕生したが,その能力を検証した研究はほとんど見当
たらない.そこで日本における二次救急患者に対するNPの臨床推論能力を検証した.
【方法】
A病院の二次救急外来では救急搬送患者に対してNPチーム(2名のNPと1名の指導医)と,初期臨床研修医
チーム(2名の初期臨床研修医と1名の指導医,以下をDRチームと称する)が対応している.NPチームが対応
した198名の患者と,DRチームが対応した103名の患者を対象に① NPが臨床推論あるいは初期臨床研修医が
診断した初診時の病名と退院時に主治医が診断した病名との一致率(病名一致率とした),② 転帰が帰宅となっ
た患者の48時間以内の再受診率を比較した.患者に関するデータは電子カルテから入手した.
【結果】
病名一致率はNPチームが98.7%,DRチームが95.5%で2群間に有意差は認められなかった(P=0.26).再
受診率は,NPチームが1.9%,DRチームが2.0%で2群間に有意差は認められなかった(P=0.96).
【結論】
A病院の二次救急患者に対するNPの臨床推論能力は初期臨床研修医の診断能力と同じレベルであると考えら
れた.また,医師の監督下のもとNPが初期医療を行う救急体制の安全性が担保されていることも明らかとなっ
た.
Key Words:診療看護師(NP),JNP,ナース・プラクティショナー,臨床推論能力,診断能力
【目的】
診療看護師(NP)が,急性期入院患者の異常を察知する際にどのような認識と,実践を行っているのかとい
う思考プロセスを想起により言語化することで臨床判断の特徴を明らかにする.
【方法】
本研究では,研究同意が得られた診療看護師(NP)に半構成面接を行った.データ分析は,SCAT(Steps
for Coding And Theorization)を用いた.
【結果】
テクストデータから56の構成概念を抽出し,その構成概念を紡ぎ,ストーリーラインを作成し,そこから22
の理論記述が得られた.この理論記述の背景,関係性を整理したところ,4つの「予測・認識・思考のフェーズ」
と,2つの「実践フェーズ」,加えてフェーズ間を繋ぐ「異常補完アプローチ」の関係が明らかとなった.
【結論】
診療看護師(NP)は,異常を察知する臨床判断に繋がるファーストステップとして,【異常の予測】先行によ
る【異常の察知】を行うプロセスを強く意識している.臨床判断に基づく実践には,【看護学的治療介入】と,
【医学的治療介入】があり,この結果を【治療反応の追跡】を通じて評価している.異常補完アプローチには,
【不可逆変化移行への予防的働きかけ】により,【多職種協働による情報共有】や【治療およびケア計画への患
者・家族の巻込み】を行うだけでなく,【円環型思考プロセス】による異常への原因検索を繰り返すことでより
質の高い,安全な患者ケアの提供に繋げている.
Key Words:異常の察知,臨床判断,診療看護師(NP)
【目的】
本研究は,諸外国におけるNurse Practitioner(以下NP)と医師の協働に関する文献を調査・検討し,両者
の協働を促進・阻害する要因を明らかにすることを目的とする.
【方法】
PubMedならびにCINAHL with Full Textを用いて「Nurse Practitioner」と「Patient Care Team」
「Interprofessional Relations」「Communication」等のキーワードからそれぞれAND検索を行い,最終的に6
件の文献を採用した.
【結果】
NPと医師の協働の促進要因は,①コミュニケーションに基づく信頼,②臨床場面における直接的な協働,③
NPの自律性,④役割や責任の明確化,⑤組織の支持,⑥患者背景の複雑化の6つに集約され,NPと医師の協働
の阻害要因は,①連携・協働の機会の乏しさ,②NPに対する不明瞭な認識,③不適切な職域の設定,④組織の
理解の乏しさ,⑤社会的・法的規制の5つに集約された.
【考察】
NPと医師は,各々の専門職としての役割に基づき,相互補完的な協働関係を構築していく必要がある.また
組織の方針や法制度,社会のヘルスケアニーズの変化に応じて,協働の機会は変化する.日本においても,質の
高い医療提供を行うために,診療看護師と医師の協働の機会を増やしていくことが望まれる.
Key Words: Nurse Practitioner,診療看護師,医師,協働